HEALTH JOURNAL

慢性炎症は腰痛に関与する?コロナ禍後の変化を考える

Long COVID、免疫反応、活動・睡眠の変化から読み解く長引く痛み

執筆:YOKOHAMA BASE編集部
監修:宮城 智哉(理学療法士)

朝の公園を無理なく歩く人

この記事で伝えたいこと

慢性腰痛は骨や筋肉だけの問題ではなく、免疫系がつくる低度の炎症状態が一部の人の痛みや回復に関与している可能性があります。さらにコロナ禍を経て、SARS-CoV-2感染後の免疫異常と、活動・睡眠・代謝環境の変化という二つの経路が注目されるようになりました。

ただし、『コロナ禍で国民全体の慢性炎症が増え、それが腰痛を起こした』と直接証明した研究は現時点でありません。本記事では、どこまでが確認された事実で、どこからが有力な仮説なのかを分けながら、慢性炎症と腰痛を一本の流れで考えます。

臨床現場から:YOKOHAMA BASEでは、コロナ禍を経て、感染後から続く倦怠感や睡眠の乱れ、活動量の低下などを伴い、局所への負担だけでは説明しにくい痛みのケースが増えたと感じています。これは研究によって因果関係が証明された事実ではなく、あくまで日々の臨床に基づく所感です。一方で、慢性炎症を含む全身状態が痛みに関与している可能性を考え、腰だけを見るのではなく、感染歴、疲労、睡眠、活動後の反応まで丁寧に確認する必要性を以前より強く感じています。

慢性炎症とは、弱い火種が続く状態

炎症は感染や損傷から体を守り、修復を始めるための反応です。急性炎症では腫れ、熱、痛みなどが短期間に起こります。一方、低度の慢性炎症では明確な腫れや発熱がなくても、免疫細胞やサイトカイン、血管・代謝系の反応が小さく長く続くことがあります。

加齢、内臓脂肪、喫煙、睡眠不足、慢性的なストレス、運動不足、代謝疾患などは全身性の低度炎症と関係します。しかし慢性炎症は一つの病名ではなく、CRPなど一項目だけで『炎症体質』と診断できるものでもありません。

慢性炎症は、どう腰痛に関わり得るのか

第一の経路は、末梢組織の感受性です。炎症性サイトカインは痛みを受け取る神経終末を敏感にし、通常なら強い痛みにならない刺激を痛く感じさせる可能性があります。椎間板や終板周辺でも、変性と炎症性物質の関係が研究されています。

第二の経路は神経系です。痛みが長く続くと、脊髄や脳で痛みを処理する仕組みが過敏になることがあります。免疫・神経系の相互作用を介する神経炎症も研究されていますが、日常診療で脳の炎症を簡単に測定し、個人の腰痛原因として確定できる段階ではありません。

第三の経路は回復力です。疲労、睡眠障害、抑うつ、不安、代謝異常が重なると、身体活動が減り、筋力や持久力が落ち、痛みから回復しにくい循環が生まれます。炎症はこの循環の原因にも結果にもなり得るため、単純な一方向ではありません。

腰痛患者の血液では何が見つかっていますか?

非特異的腰痛を対象とした系統的レビューでは、CRP、IL-6、TNF-αなど炎症関連マーカーと、痛みや機能障害との関連が検討されています。関連が報告された指標はあるものの、研究ごとの対象、採血時期、腰痛の定義が異なり、結果は一貫していません。

2025年には900人を超える慢性腰痛コホートで複数の炎症性・抗炎症性サイトカインが測定され、腰痛の中に異なる炎症プロフィールを持つ集団が存在する可能性が検討されました。重要なのは『全員が炎症性』ではなく、慢性腰痛を一つの病態として扱わず、将来的にサブタイプを見分ける研究が進んでいる点です。

現時点では、市販の炎症検査やCRPだけで腰痛の原因を決めたり、特定の抗炎症治療が効く人を選んだりすることはできません。検査値は感染症、自己免疫疾患、代謝疾患などを含めて医師が解釈します。

コロナ禍後に注目すべき二つの変化

コロナ禍と慢性炎症の関係は、①SARS-CoV-2感染後に続く生物学的変化と、②パンデミックに伴う生活・社会環境の変化に分けると理解しやすくなります。この二つは重なることがありますが、感染していない人の変化まで同じ仕組みで説明してはいけません。

経路1:感染後に免疫反応が長引くLong COVID

COVID-19後、一部の人では倦怠感、息切れ、認知機能の変化、睡眠障害、筋・関節痛などが長く続きます。Long COVIDの機序として、持続的な免疫活性化、ウイルス成分の残存、自己免疫、血管内皮・凝固系の異常、代謝や自律神経の変化など複数の仮説が研究されています。

Long COVIDの血液バイオマーカーに関する系統的レビューでは、免疫・炎症、血管、代謝・凝固に関わる多数の指標が報告されました。しかし、単独でLong COVIDを診断できるマーカーは見つかっていません。つまり『感染後に炎症が続く人がいる』ことは支持されますが、全感染者が慢性炎症になるわけではありません。

Long COVIDと腰痛はつながっていますか?

Long COVIDでは筋骨格痛がよく報告され、局所痛だけでなく広範囲の痛み、筋力低下、強い疲労を伴う場合があります。地域住民を対象とした症例対照研究では、COVID-19感染歴のある群で腰痛が多い関連も報告されました。ただし観察研究であり、炎症が腰痛を直接起こしたと証明するものではありません。

感染後の腰痛では、免疫反応だけでなく、療養中の不活動、咳、呼吸パターン、筋力低下、睡眠障害、不安などが同時に関与し得ます。強い倦怠感や運動後に症状が悪化する人へ、通常の腰痛と同じ運動量を一律に勧めるのは適切ではありません。

経路2:活動・睡眠・代謝環境の変化

外出制限、在宅勤務、通勤の減少によって、座位時間が増え、身体活動が減った人がいます。同時に睡眠リズム、食行動、飲酒、孤立、心理的ストレスが変化した人もいます。これらはそれぞれ腰痛の経過や全身性低度炎症と関連し得ます。

ブラジルのコホートでは、パンデミック初期に腰痛の有病割合自体は大きく変わらなかった一方、痛みの強さと活動制限が増えました。これは『腰痛患者が一律に増えた』というより、すでにある腰痛が生活環境の変化で重くなった可能性を示します。

パンデミック後の慢性腰痛で見つかった神経炎症シグナル

小規模な画像研究では、パンデミック前とパンデミック中の慢性腰痛患者を比較し、感染歴にかかわらず、後者で脳の神経炎症マーカーと推定脳年齢の上昇が報告されました。社会的孤立やストレスなどの影響を含む興味深い結果ですが、56人の後ろ向き研究であり、社会全体へ一般化したり因果関係を断定したりはできません。

それでもこの研究は、腰痛を腰の画像だけで捉えず、免疫、脳、心理社会環境まで含む状態として考える必要性を示します。コロナ禍は新しい原因を一つ作ったというより、痛みを維持する複数の条件を同時に強めた可能性があります。

どのような人が医療機関へ相談すべきですか?

COVID-19後3か月以上、強い疲労、息切れ、動悸、認知・睡眠の問題、広範囲痛が続く
運動した翌日以降に全身症状が大きく悪化する
腰痛に発熱、体重減少、夜間痛、脚の脱力、排尿排便の異常を伴う
関節の腫れ、長い朝のこわばり、皮膚・眼・腸の炎症症状がある

これらがあれば『慢性炎症だから』と自己診断せず、感染後症状、炎症性疾患、感染症、神経疾患などを含めて医師へ相談します。緊急性のある神経症状や強い全身症状では早急な受診が必要です。

回復のためにできること

一般的な慢性腰痛では、睡眠を整え、座位を区切り、無理のない有酸素運動と筋力運動を段階的に行うことが基本です。禁煙、持病の管理、偏りの少ない食事も全身の健康を支えます。これらは『炎症を消す裏技』ではなく、回復を妨げる条件を一つずつ減らす方法です。

Long COVIDが疑われ、運動後の症状悪化がある場合は、頑張って運動量を増やす方法が合わないことがあります。症状日誌をつけ、活動と休息の配分を医療者と相談してください。サプリメントや極端な食事制限で炎症を自己治療することは避けます。

まとめ

慢性炎症は、一部の慢性腰痛で痛みの感受性や回復へ関与する可能性があります
Long COVIDでは持続的な免疫活性化と筋骨格痛が報告されていますが、単一マーカーや単一原因では説明できません
コロナ禍の活動・睡眠・心理社会環境の変化も、炎症と腰痛の両方に影響し得ます
一般人口で慢性炎症がどれだけ増え、腰痛を起こしたかを直接示す証拠はまだ不足しています
感染歴、全身症状、生活変化を含めて評価し、本人に合う回復計画を立てることが重要です

免責事項

本記事は一般的な健康情報であり、個別の診断・治療を目的とするものではありません。症状が強い、悪化している、心配な徴候がある場合は医療機関へ相談してください。

よくある質問

慢性腰痛はすべて慢性炎症が原因ですか?

いいえ。炎症は研究されている要素の一つですが、すべての慢性腰痛に共通する単一原因ではありません。

CRPが正常なら炎症は関係ありませんか?

単一の血液検査だけで腰痛組織の局所反応や痛みの仕組みを判断することはできません。検査結果は症状や診察所見と合わせて医師が解釈します。

抗炎症食品やサプリで腰痛は治りますか?

特定の商品だけで腰痛が治るという十分な根拠はありません。食事は健康全体の一部として整え、極端な制限や薬との相互作用に注意してください。

参考文献

  1. Association Between Inflammatory Biomarkers and Nonspecific Low Back Pain: A Systematic Review
  2. A systematic review of inflammatory biomarkers in acute, subacute and chronic non-specific low back pain
  3. The association between inflammatory biomarkers and low back disorder: systematic review and meta-analysis
  4. WHO guideline for non-surgical management of chronic primary low back pain
  5. Blood Biomarkers of Long COVID: A Systematic Review
  6. Clinical Characteristics and Mechanisms of Musculoskeletal Pain in Long COVID
  7. SARS-CoV-2 infection is associated with low back pain: a community-based case-control study
  8. Neuroimmune activation and increased brain aging in chronic pain patients after the pandemic onset
  9. Short-term impact of COVID-19 pandemic on low back pain: PAMPA Cohort