HEALTH JOURNAL

認知症予防は、物忘れが始まってから?今から知っておきたい認知症と予防の話

アルツハイマー病の発症前変化と、今日からできる脳の健康づくり

執筆:YOKOHAMA BASE編集部
監修:宮城 智哉(理学療法士)

健康について専門職へ相談する人

この記事でわかること

認知症とは何か、アルツハイマー病との関係
症状が現れる前から起こり得るアルツハイマー病の変化
WHOが示す、生涯を通じた認知症リスク低減の考え方
今日から始められる、身体と脳の健康を守る習慣

認知症とは?

『認知症』という名前の一つの病気があるわけではありません。認知症とは、脳のさまざまな病気などによって、記憶、思考、判断、日常生活を送る能力などが低下した状態を指します。

その原因となる代表的な疾患の一つがアルツハイマー病です。WHOによると、アルツハイマー病は認知症の約60〜70%を占めると推定されています。世界では5,700万人以上が認知症とともに生活し、毎年約1,000万人が新たに認知症と診断されています。

アルツハイマー病は「症状が出た日」に始まるわけではない

2024年、医学雑誌『New England Journal of Medicine』に、アルツハイマー病の発症前の変化を約20年間追跡した研究が発表されました。研究では、最終的にアルツハイマー病と診断された648人と、認知機能が正常なままだった648人を比較しています。

すると、アルツハイマー病と診断されるかなり前から、両者の間に違いが現れていました。最も早かったのは脳脊髄液中のアミロイドβ42で、両群の差は診断のおよそ18年前から確認されました。

Aβ42/Aβ40比:約14年前
リン酸化タウ181:約11年前
総タウ:約10年前
神経フィラメント軽鎖:約9年前
海馬体積:約8年前
認知機能低下:約6年前

少なくともアルツハイマー病では、『物忘れに気づいたところからすべてが始まる』とは限りません。本人が普通に生活している段階でも、将来アルツハイマー病を発症する人では、そのかなり前から生物学的な変化が進んでいる場合があります。

これは『認知症は必ず20年前から始まっている』という意味ではありません。また、若いうちから脳内のアミロイドを検査しましょう、という話でもありません。臨床的な診断より前に、一部のバイオマーカー変化が現れる場合があるという研究結果です。

WHOも「生涯を通じた認知症予防」を重視しています

2026年7月、WHOは『Risk reduction of cognitive decline and dementia』第2版を発表しました。新しいガイドラインでは、認知症のリスク低減をライフコース全体で考えることが重視されています。高齢になってからだけではなく、人生を通して脳の健康を守っていこうという考え方です。

WHOが示した「変えられるリスク」

認知症には、年齢や遺伝的要因など、自分では変えることが難しい要素があります。しかし、それだけではありません。WHOは、次のような修正可能な要因についても検討しています。

身体活動、喫煙、有害な飲酒
食事・栄養、肥満、高血圧、糖尿病、脂質異常症
聴力低下、視力障害、うつ、睡眠
脳卒中、外傷性脳損傷
社会的・認知的活動、大気汚染

認知症予防のためだけに、特殊なことを始めるわけではありません。運動する、タバコを吸わない、飲酒量に気をつける、バランスのよい食事をする、血圧や血糖を管理する、人とのつながりを保つ、聴力や視力の問題を放置しない。こうした身体全体の健康を守る取り組みが、結果として脳の健康にもつながっていきます。

認知症のリスクは最大45%、予防または発症を遅らせられる可能性

WHOは2026年のガイドライン発表時、認知症リスクの最大45%は修正可能なリスク因子に関連しており、予防または発症を遅らせられる可能性があるとしています。

この数字は、『生活習慣を改善すれば、個人の認知症発症率が45%下がる』という意味ではありません。認知症にならないことを保証する数字でもありません。遺伝的要因や加齢など、変えられないリスクもあります。

認知症予防とは、認知症にならないことを保証する方法ではなく、変えられるリスクを一つずつ減らしていくことと考える方が適切です。

特別な「脳トレ」より、まず身体を動かす

今日からできることの一つが身体活動です。WHOの最新ガイドラインでも、身体活動は認知機能低下・認知症のリスク低減を考えるうえで取り上げられている重要な生活習慣です。

運動習慣は、心血管系、血圧、血糖、筋肉、身体機能など、さまざまな健康要素にも関係します。身体を守ることと、脳を守ることは完全に別々の話ではありません。

まずは一日10分の歩行や、座り続けないための短い休憩から始める
安全にできる範囲で、歩行・筋力運動・趣味の活動を続ける
持病や運動への不安がある場合は、医療専門職に相談して方法を選ぶ

「いつから始めればいい?」への答え

認知症予防を始める年齢に、特定の境界線を引く必要はないでしょう。アルツハイマー病の生物学的変化が診断のかなり前から確認されること、そしてWHOがライフコース全体でのリスク低減を重視していることを考えれば、『まだ若いから関係ない』と考える必要はありません。

30代でも、40代でも、50代でも、そしてそれ以上の年齢でも、今からできることを少しずつ積み重ねる。それが予防医学の基本だと、YOKOHAMA BASEでは考えています。

病気になってから健康を考えるのではなく、元気なうちから考える

身体に痛みが出てから身体について考える。健康診断で異常を指摘されてから生活習慣を変える。物忘れが増えてから脳について考える。もちろん、そこから始めることにも意味があります。

しかし、問題が起きる前から自分の身体に目を向けることができれば、選択肢はもっと増えます。将来を怖がる必要はありませんが、『まだ自分には関係ない』と無関心でいる必要もありません。

運動する。食生活を整える。血圧や血糖を管理する。タバコをやめる。人とのつながりを持つ。必要なら聴力や視力の問題にも対処する。一つひとつは特別なことではありません。でも、その小さな習慣の積み重ねが、10年後、20年後の健康につながっていく可能性があります。

認知症予防とは、認知症にならないために何か特別なことをするというより、将来の自分のために、今の健康を大切にすること。まずはそこから始めてみてはいかがでしょうか。

免責事項

本記事は一般的な健康情報の提供を目的としており、認知症その他の疾患の診断・治療を目的としたものではありません。認知機能の変化などについて心配がある場合には、医療機関へご相談ください。

よくある質問

認知症予防は何歳から始めればよいですか?

特定の年齢を境界にする必要はありません。運動、血圧や血糖の管理、禁煙、社会的なつながりなど、今の健康を整える習慣を年齢に応じて続けることが大切です。

物忘れがない人も認知症予防を考える必要がありますか?

はい。WHOは認知症リスクの低減を生涯を通じて考えることを重視しています。ただし、将来の発症を確実に防ぐ方法ではなく、変えられるリスクを減らす考え方です。

アミロイドなどの検査を早く受けるべきですか?

この記事は、若いうちから検査を勧めるものではありません。研究で示されたバイオマーカーの変化と、個人の診断や検査の必要性は別の問題です。心配な症状がある場合は医療機関へ相談してください。

参考文献

  1. Jia J, Ning Y, Chen M, et al. Biomarker Changes during 20 Years Preceding Alzheimer's Disease. N Engl J Med. 2024;390:712-722.
  2. World Health Organization. New WHO guidelines: up to 45% of dementia risk could be prevented or delayed. 15 July 2026.
  3. World Health Organization. Risk reduction of cognitive decline and dementia: WHO guidelines, second edition. Geneva: World Health Organization; 2026. ISBN: 978-92-4-012355-7.