この記事でわかること
サルコペニアとは?
『サルコペニア』という言葉を聞いたことがあるでしょうか。一般的には『年齢とともに筋肉が減ってしまうこと』というイメージがあるかもしれません。しかし現在は、単純に筋肉の量だけの問題とは考えられていません。
欧州の専門家グループEWGSOP2は、サルコペニアを生涯にわたって蓄積する筋肉の変化を背景とした『筋疾患(muscle disease)』として位置づけています。特に重要視されているのが筋力です。筋力が低下している場合にはサルコペニアが疑われ、さらに筋肉量・筋質の低下が確認されると、サルコペニアと診断されます。
つまり、『見た目が細くなったかどうか』だけを見ていては、筋肉の衰えを十分に判断できません。立てるのか、歩けるのか、物を持てるのか、日常生活を問題なく送れるのかという機能まで見ることが重要です。
筋肉は何歳から減り始める?
EWGSOP2では、筋肉量と筋力は子どもから青年期にかけて増加し、若年成人期にピークを迎え、中年期には比較的維持され、その後、加齢とともに低下していくというライフコースが示されています。個人差はありますが、筋肉量や筋力の最大値はおおむね20〜40歳代までに到達すると考えられています。
高齢になってから初めて筋肉の問題が始まるわけではありません。若い頃にどれくらい筋肉・筋力を獲得できたのか、中年期にどれくらい維持できたのか、高齢期にどのくらいの速度で低下していくのか。こうした長い時間の積み重ねによって、将来の身体機能は変わっていきます。
筋肉量より先に「筋力」に注目する理由
加齢による変化では、筋肉量の減少と筋力の低下は必ずしも同じ速度で進みません。Yamadaのレビューでは、加齢に伴う筋力やパワーの低下速度は、筋肉量の低下速度よりも大きいことが報告されています。
なぜサルコペニアを早く見つけることが大切なのか?
筋力が落ちても、最初のうちは日常生活に大きな問題が出ないことがあります。そのため、『年齢だから仕方ない』『最近ちょっと体力が落ちただけ』と見過ごしてしまうこともあります。さらに身体機能が低下すると、歩くことがつらくなる、外出する機会が減る、転倒しやすくなる、日常生活で人の助けが必要になるといった問題につながる可能性があります。
EWGSOP2もサルコペニアの早期発見と早期介入を重要視しています。完全に動けなくなってから考えるのではなく、『以前より少し弱くなった』という段階で気づくことに意味があります。
こんな変化はありませんか?
こうした変化があれば、単純に『年齢のせい』と片づけず、一度、自分の筋力や身体機能に目を向けるきっかけにしてみてください。医療や研究では、SARC-Fという質問票、握力、椅子から立ち上がる能力、歩行速度、SPPB(Short Physical Performance Battery)などが利用されています。
簡単にできる「椅子立ち上がりチェック」
自宅で身体機能を見る一つの方法として、椅子からの立ち上がりがあります。安定した椅子に座った状態から、できるだけ手を使わずに立ち上がってみてください。以前より立ち上がるのが大変になっていないか、勢いをつけないと立てないか、手で膝や椅子を押したくなるか、何度か繰り返すと急激につらくなるかを確認します。
EWGSOP2でも、5回椅子立ち上がりテストは下肢筋力を評価する方法の一つとして使用されています。ただし、このセルフチェックだけでサルコペニアを診断することはできません。関節の痛みや神経疾患、バランス能力など、立ち上がりに影響する要因はほかにもあります。
サルコペニア予防で重要なのは「使い続けること」
筋肉を守る基本となるのが、身体活動と筋力トレーニングです。WHOの身体活動ガイドラインでは、高齢者について主要な筋群を使った中等度以上の筋力トレーニングを週2日以上行うことが推奨されています。
さらに、筋力だけではなくバランス能力や身体機能を維持するため、筋力トレーニングとバランス運動などを組み合わせた多要素の運動を週3日以上行うことも推奨されています。
これは、高齢になったら突然週2回の筋トレを始めればよいという意味ではありません。日常的に身体を動かす習慣を、できるだけ長く維持することが重要です。
筋肉は「貯金」に少し似ています
筋肉を完全に貯金と同じように考えることはできません。しかし、若い頃から筋肉や筋力を獲得し、中年期にも運動習慣を維持し、高齢になっても可能な範囲で身体を使い続けるという積み重ねは、将来の身体機能を支える可能性があります。
『失ってから取り戻す』だけではなく、『できるだけ失わない身体を作っておく』。それも予防医学の大切な考え方です。
これは30代・40代にも関係する話です
サルコペニアと聞くと、70代、80代の人の話だと思うかもしれません。確かに高齢者に多くみられますが、EWGSOP2では、サルコペニアにつながる筋肉の変化は生涯を通して蓄積し、状況によってはより若い年代でも起こり得るとされています。
30代だから関係ない、40代だからまだ大丈夫、50代になったら考えよう、ではなく、動ける今のうちから将来の身体のために筋肉を維持するという考え方が大切です。
運動だけではなく「食べること」も大切
筋肉を維持するためには、運動だけを考えればよいわけではありません。特に高齢者では、食事量そのものが減る、たんぱく質の摂取量が不足する、病気や入院によって活動量と食事量が同時に低下するなど、筋肉の維持を難しくする場合があります。
「年齢だから仕方ない」で終わらせない
年齢を重ねれば、身体が若い頃とまったく同じではなくなるのは自然なことです。しかし、年齢を重ねることは、何もできないという意味ではありません。WHOのガイドラインでも、定期的な身体活動は高齢者の身体機能を改善し、加齢に伴う身体機能低下のリスクを減らすことが示されています。
年齢は変えられなくても、身体への関わり方は変えることができます。
認知症も、サルコペニアも「元気な今」から考える
認知症もサルコペニアも、高齢になったある日に突然始まるものとは限りません。筋肉量や筋力は若い頃から高齢期まで、長い時間をかけて変化していきます。病気になってから健康を考えるのではなく、まだ元気なうちから将来の身体を考える。これが予防医学では大切になります。
10年後、20年後も自分の脚で歩くために
旅行に行く、買い物に行く、友人に会いに行く、好きな場所へ出かける。自分で立ち、自分の脚で歩く。こうした当たり前の日常を支えているものの一つが、筋肉と身体機能です。筋肉を守ることは、将来の『自分で生活する力』を守ることでもあります。
歩けなくなってから運動する、立てなくなってから筋力をつける、ではなく、まだ歩ける今、まだ立てる今、まだ元気に身体を動かせる今から、身体を動かすことを生活の中に取り入れてみてください。筋肉は、失ってから初めて考えるのではなく、動けるうちから守っていく。それも将来の健康のためにできる大切な予防の一つです。
免責事項
本記事は一般的な健康情報の提供を目的としており、サルコペニアその他の疾患の診断・治療を目的としたものではありません。急激な筋力低下、歩行障害、体重減少などがある場合や、身体機能の低下が気になる場合には、医療機関などの専門家へご相談ください。
よくある質問
サルコペニアは高齢者だけの問題ですか?
高齢者に多くみられますが、筋肉や筋力の変化は若い頃から長い時間をかけて蓄積します。動けるうちから運動習慣を維持することが将来の身体機能を支える可能性があります。
筋肉が細くなっていなければ大丈夫ですか?
見た目だけでは判断できません。筋力や、立つ・歩く・物を持つといった身体機能も合わせて確認することが大切です。
椅子立ち上がりチェックで診断できますか?
いいえ。関節の痛み、神経疾患、バランス能力なども影響するため、あくまで以前との変化に気づくための目安です。気になる場合は専門家へ相談してください。
参考文献
- Cruz-Jentoft AJ, Bahat G, Bauer J, et al. Sarcopenia: revised European consensus on definition and diagnosis. Age Ageing. 2019;48(1):16-31.
- Yamada Y. Muscle Mass, Quality, and Composition Changes During Atrophy and Sarcopenia. Adv Exp Med Biol. 2018;1088:47-72.
- World Health Organization. WHO Guidelines on Physical Activity and Sedentary Behaviour. Geneva: World Health Organization; 2020.
