HEALTH JOURNAL

ストレスで痛みが強くなるのはなぜか

筋緊張・脳の警戒・睡眠から理解する、本物の痛みの増幅

執筆:YOKOHAMA BASE編集部
監修:宮城 智哉(理学療法士)

健康について専門職へ相談する人

ストレスで強くなる痛みも、本物の痛みである

検査で大きな損傷が見つからないのに痛い。忙しい時期に悪化し、旅行や休日には軽くなる。そこで『ストレス性だから気のせい』と言われると、本人は痛みまで否定されたと感じます。しかしストレスで痛みが変わることは、痛みが存在しないという意味ではありません。

YOKOHAMA BASEの主張:痛みは組織の損傷量だけで決まりません。脳と身体が危険をどれだけ強く予測しているかによって、実際の痛みの強さが変わります。

痛みは、身体を守る警報である

神経から届く情報をもとに、脳は損傷、炎症、過去の経験、睡眠、感情、周囲の状況を統合し、身体を守る必要があるときに痛みを生み出します。捻挫や骨折では組織の情報が強く影響しますが、痛みが長引くほど、神経系の警戒や予測も大きな役割を持ちます。

この仕組みは欠陥ではありません。危険な場所で痛みを強く感じ、安心できる状況で少し動けることは、生存のために合理的です。問題は、危険が去った後も警報の感度が戻らないことです。

急性ストレスは痛みを消すことも、増やすこともある

試合中や事故直後に痛みに気づかないように、強い急性ストレスは一時的に痛みを抑えることがあります。一方、制御できない不安や長期のストレスでは、身体感覚への警戒が上がり、痛みを強く感じやすくなります。ストレスと痛みの関係は、単純な一方向ではなく、反応と回復の文脈で決まります。

慢性ストレスが痛みを増幅する三つの経路

筋肉の固定:行動へ備えて顎、首、肩、背中などの低い緊張が続く
神経系の感度:危険への注意が高まり、通常なら流せる刺激を強く評価する
回復の低下:睡眠が乱れ、痛みを抑える神経機能と活動への余力が落ちる

慢性一次性疼痛を対象とした研究では、自律神経やHPA軸の反応・回復と痛み感受性の関連が示されています。全員に同じ異常があるわけではありませんが、痛みを局所の画像だけで説明しきれない理由を裏づけます。

筋緊張は原因にも結果にもなる

ストレスで身体を固めると筋肉が休みにくくなります。痛みが出ると、さらに動かさないよう筋肉を固めます。張りを感じて強く揉み、直後に痛みが戻るのは、筋肉の硬さだけでなく、警戒と固定の循環が残っているためです。

『考え方を変えれば治る』ではない

心理的要因が痛みに関わると説明すると、本人の性格や思考へ責任を押しつけがちです。しかし職場の要求、介護、経済的不安、人間関係、過去の体験など、警戒を生む現実の条件があります。本人へ前向きさを要求する前に、負荷を減らし、選択肢と安全を増やす必要があります。

同時に、痛みへの破局的な予測や回避が動ける範囲を狭めている場合は、痛みについて理解し、安全な動作を段階的に経験することが役立ちます。これは痛みを我慢する訓練ではなく、神経系へ『この動作は危険ではない』という新しい情報を渡す作業です。

治療は、局所と警戒システムを同時に扱う

関節や筋肉の評価、必要な医学的検査を行ったうえで、睡眠、仕事、運動、気分、生活上の脅威を確認します。局所治療で動きやすさをつくり、その変化を使って歩行や筋力運動を行い、日常で安全な経験を増やします。

痛みが強くなる場面と、軽くなる場面を記録する
活動をゼロか百かにせず、翌日に大きく残らない量へ調整する
呼吸、歩行、睡眠、対話など警戒を下げる経路を複数持つ
痛みの点数だけでなく、仕事・家事・外出が戻ったかで評価する

ストレス源が変えられないとき

介護や仕事など、すぐに手放せない負荷もあります。その場合は、完全にストレスをなくすことを目標にしません。休める担当者を増やす、時間の境界をつくる、専門家へ相談する、身体活動と睡眠を守るなど、一つの負荷が全時間を占領しない構造をつくります。

まとめ

ストレスで痛みが増えるのは、痛みが偽物だからではありません。身体を守る警報が、筋緊張、神経系の感度、睡眠を介して強くなるからです。局所の原因を確認しながら、警戒を長引かせる生活条件も扱う。身体と心を分けないことが、長引く痛みから抜けるための現実的な方法です。

ストレスと決めつける前に

胸痛、強い息苦しさ、意識障害、突然の激しい頭痛、自傷を考えるほどのつらさは緊急の相談が必要です。また、発熱、体重減少、出血、進行するしびれや脱力などがある場合も、ストレスだけで説明せず医療機関を受診してください。本記事は一般的な健康情報であり、個別の診断を目的とするものではありません。

よくある質問

ストレス性の痛みは偽物ですか?

いいえ。ストレスは筋緊張、神経系の警戒、睡眠などを介して実際の痛みを変化させます。

検査が正常なら身体の治療は不要ですか?

不要とは限りません。局所の機能を評価しながら、睡眠、活動、心理社会的負荷を同時に扱います。

痛みがあっても動くべきですか?

重大な病気がなく、医療者から制限されていなければ、悪化しない量から段階的に活動を戻します。強い症状を我慢する必要はありません。

参考文献

  1. The stress-pain connection in chronic primary pain: systematic review and meta-analysis
  2. Psychosocial, physical, and neurophysiological risk factors for chronic neck pain
  3. The effects of workplace stressors on neck-shoulder muscle activity: systematic review and meta-analysis
  4. Sleep disturbance is associated with neck pain: a 3-year longitudinal study
  5. The impact of sleep disturbance on pain perception: systematic review